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前回の事前調査編は、ATH-HL7BTを購入するまでの経緯についてでした。
今回の実践編では、実際のセットアップを行っていきます。
【前提】
・無線のみで運用する想定です。有線接続時は本体内蔵のEQが全く効きません。
・完全にモニターヘッドホンを代替するものではないと考えています。少なくとも2026年現在のBluetoothヘッドホンは、技術的な障壁から必ず音声の圧縮と通信による遅延を含みます。
・設定にはaudio-technica Connect (以下、A-T Connect)を動作できるAndroidまたはiOSデバイスが設定に必要です。
・自分の個体ではこの設定がベストと判断しましたが、物理的な製品にはある程度の個体差が存在します。
・この記事で紹介する情報や具体的な設定値などについては、全て無保証とします。
【目的】
今回の目的はタイトル通り「モニターライク」を実現する事ですが、より具体的には
・ATH-R70xの音質や周波数特性から大きく外れないように調整する
・遅延については許容するものとする
・主に打ち込み作業での大まかな作業に堪える事を目指す
になります。前回記事の通り、自分のメインモニターはATH-R70xで、それでの作業の補助のような形で使用することを目指しています。
調整の結果、大まかな作業…ラフミックス程度までは行う事ができるといいなと考えています。
【EQ設定 - シミュレーション】
今回の間違った運用の要である、EQ設定です。
まず「ヘッドフォン試聴部屋〜百聞は一聴にしかず」で公開されている、ATH-R70xとATH-HL7BTのデータを見比べる所から始めています。
こちらのサイトのデータは、全てのヘッドホンについて同条件で録音・公開されていると判断し、目標機種と当機種の間にどの程度の差があるのかを追いかけ、EQの値をシミュレーションする所まで行えると判断しました。
(緑=ATH-R70x, 赤=ATH=HL7BT)
データ元のサイトや、前回紹介したフィンランド語のブログでも公開されている周波数特性グラフの通り、3kHz周辺に大きなディップがあります。これをATH-HL7BTのEQで行える範囲で、ATH-R70xの特性に近づくような補正をシミュレーションしてみます。
補正に関して、事前調査の範囲では、
・グラフィックEQモードは1つの値につき、±12dBの補正を行う事ができる
・パラメトリックEQモードは1つの値につき、±6dBの補正を行う事ができる
・どちらのモードでも、5バンドの設定が可能
までは判明していました。
後に実機でテストした際には、
・パラメトリックEQモードは近似位置にブースト/カットが重なった場合、その値が重複するが、補正が±12dBまでは使えないように見える (もっと低そうな辺りでクリップ警告が出る) (ある程度までは想定済み)
・パラメトリックEQモードで使えるカーブはBellタイプのみで、多分12dB/octに固定 (カーブタイプ設定のないGUIから想定済み)
・パラメトリックEQモードで指定できる周波数やQ値、dB値は完全に自由ではないが、比較的狭い刻みで設定が可能である (A-T Connectの開発者インタビュー記事で多少触れられてはいた) (ある程度想定済み)
も判明しました。
シミュレーションを行ったのは実機テストの前のため、±6dBが2つ重なってもよし、周波数設定は自由、といった条件でシミュレーションを行いました。
結果としては、このぐらいできれば恐らくOK、という値に辿り着くことができました。
前述の周波数特性グラフでは、こういった状態まで補正されます。 
(緑=ATH-R70x, 赤=ATH=HL7BT)
このデータを元に、実機に設定していきます。
【EQ設定 - 実装】
ATH-HL7BTの実機と、AndroidまたはiOSの端末を用意し、端末にはA-T Connectを導入しておきます。
リンク後にA-T Connectを開き、イコライザーの設定を開き、ここにまずシミュレーションした値…に近似した値を入れてみます。この時点で大きく外した印象はなく一安心。
ここからは自分のリファレンス音源を聴いて違和感を探したり、スウィープ信号を流して変化がガタつくポイントを探し、微調整を繰り返しました。
地味ながら便利なポイントとして、この微調整時にもBluetoothのマルチポイント接続を行う事ができます。スマートデバイスでA-T Connectから調整しつつ、PCでテスト信号などを流してのチェックを繰り返すことができ、接続を切り替えなくてよい事が大幅な時間短縮になりました。
最終的に辿り着いた設定は、このようになりました。(記事末尾に値を載せてあります)
概ねシミュレーション時の値通りといった所でしょうか。本業での周波数特性差異の解析と調整の経験が大きく役に立ちました。
今回の目的はATH-R70xに似せる事なので、人によっては低音を切らなくてもいいかもしれないな、などと思う部分もありましたが、手を付けないと印象が少々変わってしまったため、シミュレーション時と同様に切ってあります。
懸念していた3kHz周辺のディップについては、最終的にスウィープ信号の繋がりが概ね問題なくなる辺りまで、クリップ警告ギリギリを攻めるように複数回の調整を行い、概ね解決できたと考えています。
【その他の設定】
・コーデックの設定
Bluetoothオーディオを深掘りしていくと、コーデックの選定に直面するようです。
ATH-HL7BTはSBC (規格上対応必須)、AAC、LDACの三種類に対応しています。ただし送信側がそれらのコーデックに対応している必要があります。
今回運用する可能性のあるWin11/Android/iOSの送信側としての対応状況としては、Androidは3種全てに対応、Win11とiOSはLDAC以外に対応しています。
ただ、Win向けにサードパーティードライバーであるAlternative A2DP Driverが開発されており、こちらを利用するとLDACを利用することが可能です。
これも試用し、試聴の結果として、全てのプラットフォームでAAC (Win11については標準ドライバー)で運用する事に決めました。
・低遅延モードの有無
ATH-HL7BTにはAAC(と恐らくSBC)で使用可能な「低遅延モード」 が存在します。これを有効にすると、明確に遅延が減り、DAW上でMIDIキーボードを弾いてもかなりの量の遅延が抑制されます (完全には無くなりません)。有効/無効を切り替えて検聴したところ、若干の音質面でのトレードオフはあるものの、遅延抑制の有効性のメリットが大きく上回るため、低遅延モードで運用することとしました。
上2つのBluetoothにまつわる詳細な話は、おまけ記事的なもので別途書こうと思います。
・余計なオーディオエンハンス機能の無効化 (Win11)
また、Win11に最初に接続した際、自分の環境ではMicrosoft Audio Home Theater Effectsなるものがデフォルトで有効にされてしまい、モノ音像が安定しなくなったりなど、少なくともモニターとしては邪魔になりました。
この設定は設定のシステム→サウンドで、デバイスの詳細設定に入ると変更できます。もちろん無効にしました。
これに限らず、他のオーディオデバイスを接続した際にも、有効になっていないかどうか確認するべきだと思います。
(というより、デフォルトで有効にするのを止めた方がいいと思います…。)
【使用感など】.jpg)
このように調整したATH-HL7BTで音楽を聴きこんだり、 前に作った曲を聴き直したり、DAWを開いて実際に自分の楽曲制作を行いました。作った曲の方は完成してからATH-R70xで確認したものの、さほど修正すべき所が感じられないという結果でした。結果としては想定以上です。
別途この2機種をとっかえひっかえしてA/B比較を行ったものの、解像度などにはもちろん違いはあるものの、大まかな周波数特性のバランスはうまく似せる事ができたと感じています。
詳細な調整が必要な局面などではこれまで通りATH-R70xが必要ですが…無線の自由度を得つつ、ある程度信頼の置ける出音で作業できるというのは想像以上に気楽で、狙いであったPC環境での作業への気持ちが大きく近づきました。
かなり無茶なイコライジングをしているようにも思えますが、自分が1週間ほど使用した限りではしっかりと応えてくれており、これはかなりいい買い物をしたように思います。
一つ残念だなと思うのは、素の出音はかなり「ウォーム」なことと、この機種が日本と台湾でしか展開されていない事でしょうか…欧州辺りにも需要がありそうにも思えるのですが。
(いくら見ても日本の技適と台湾のNCCマークしか本体にないんですよねー…)
【付録】
・A-T Connect上のEQの設定値
82Hz -0.6dB Q=0.47
2637Hz +4.2dB Q=1.04
2900Hz +3.6dB Q=1.41
4698Hz -6.0dB Q=2.87
8000Hz +4.8dB Q=1.41


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