今年買ってよかったもの 2023年版

Roland αJUNO-2 (Alpha JUNO-2, JU-2)をレストアした - 本編:修理と改造


入手等の経緯については前回をお読みください。

前回にも書きましたが、自分が入手したαJUNO-2はざっくり、
・6ポリのうち2ポリが出ていない
・ベンドレバーがおかしい
・LCDのバックライトに異常
・ボリュームスライダーに違和感
といった不具合を抱えていました。これらは治していくとして、αJUNO-2の不満点として、
・電源ケーブルが直出し
・メモリ保持電池が直付け
というものがありました。
また、今後も使い続けるにあたって、色々とやっておきたい処置もあったため、それらも行いたいと考えました。

そういったやっておきたい処置を加えて、今回は
・VCF/VCAチップの交換
・ベンドレバーの修理
・LCDをLEDバックライトのものに交換
・ボリュームスライダーの修理
・電源ケーブルをコネクタ式に交換
・メモリ保持電池のソケット化
・寿命が比較的短い、電解コンデンサの交換
・各種スイッチの交換
・FWの更新
・全体の清掃
を行いました。一個ずつ見ていきます。

 

・VCF/VCAチップの交換

画像は交換後(2系統目=B系統のIR3R05のロット番号が他と違うものになりました)。
JUNOの名称が復活したDシリーズより前のJUNOは、全てDCO(デジタルピッチ制御のアナログオシレーター)+VCF+VCAといったスタイルの、アナログシンセでした。α以前の6/60/106のVCFは概ね同構成だったものをモジュール化するなどして基板がシンプルになっていったようですが、αではVCFとVCAの機能を一つのICに統合したものが使用されています。
具体的にはIR3R05というカスタムチップで、このチップはほかにもJX-8Pなどに搭載されました。レゾナンスがα以前のJUNOよりもおとなしく、自己発振までいかないという特徴があります。αJUNOは6音ポリなので、このチップも6個搭載されています。
今回は手元に来た時点で2音分が正常に発音されていなかったため、調べていったところ2番と6番が故障しているらしいということが判明しました。外装の痛みの大きかったαJUNO-1(1台目)からIR3R05を2つ取り外し、αJUNO-2の故障品と入れ替え、発音が正常になりました。サービスマニュアルを参考に半固定抵抗を調整し、作業完了です。

・ベンドレバーの修理

画像はαJUNO-1(1台目)から外してきた直後のもの。
スプリングが既定位置から外れたのか、左に動かすと時々自力で戻らなくなるという症状が発生していました。ユニットを取り外してみると、どうも固定に使っているイモネジがうまく留まっていないように見えます。

全体を分解してメンテナンスするのが正攻法だとは思ったものの、今回は正常動作しているαJUNO-1(1台目)のベンドレバーユニットが手元にあるため、こちらと入れ替えてしまうことに決めました。
ただ、それぞれのユニットを外して見比べると、ケーブルの長さが大きく異なっていた(αJUNO-2の方がαJUNO-1の2倍ほど長い)ため、故障ユニットからケーブルを取り外し、正常ユニットに付け替えて組み込みました。αJUNO-2はαJUNO-1と比べて筐体が大きく横に伸びていることもあり、余裕のある設計がとられている印象なのですが、それゆえに引き回すケーブルも長かったようです。

・LCDをLEDバックライトのものに交換

画像は新しいLCDの試験動作中のもの。
元々付いているLCDは、表示は正常なもののバックライトの光量が低下しており、それに伴ってライトを駆動する電圧を生成しているインバーターが「ブーン…」と音を発する状態になっていました。
応急処置として、インバーターに電源を供給しているコネクタを抜きましたが、もちろんバックライトが点かなくなります。当初はこれでもいいかなと思っていたものの、やっぱりバックライトあったほうがいいよねと思い直し、LEDバックライト搭載LCDに交換しました。
他の方の例を参考にセットアップ。秋月扱いのこのLCDは自分が買った時点でラスト1台で、滑り込みセーフ…といった様相でした。最初に組み込んだ段階だと、バックライトが自分にとっては明るすぎたので、バックライト光量を調整する半固定抵抗を追加しました(画像だと上側についている方が該当)。手元に104(100kΩ)しか在庫が無かったのでそれを付けてしまったものの、新規に調達できるなら103(10kΩ)ぐらいの方が調整しやすいと思います。

・ボリュームスライダーの修理

画像は作業前。
ガリがあるというほどではなかったのですが、どことなく引っかかる感じがありました。
調べてみると汚れが詰まっていたのと、部分的に赤サビも出てきていたので、基板ごと清掃したのち、潤滑と防錆にほんの少し6-66を塗布(余談ですが5-56は電子基板に使用しない方がいいと思います)。違和感は解消しました。
サビのこともあり、代替部品に交換することも考えたのですが、現在流通している主要なタイプのスライドボリュームと、αJUNO-2に搭載されているタイプのフットプリントが異なっていたため、今回は清掃で解消することとしました。

 ・電源ケーブルをコネクタ式に交換

画像は交換後。
実は一番やりたかったことで、αJUNO-1(1台目)を入手した時から考え続けていました。
北米等では2ピンタイプのソケット(眼鏡ケーブルではない)が採用されていたらしく、αJUNOの直出しケーブルは、ソケットの固定ネジ穴を利用してブッシュが取り付けられた鉄板をねじ止めする方式になっていました。このネジ穴の間隔は、自作PC等でおなじみの3ピンIECコネクタと全く同じで、コネクタをそのままポン付けして、配線を繋げば簡単に換装が可能です。
ただし、元々はなかった3ピン目=GND端子の処理をした方がよい(一応、元の設計では2端子で動作するので省いても恐らく大丈夫だとは思いますが、せっかく端子があるので…)ので、いくつかやり方を調べた後、M3穴のある卵型のラグ端子にGNDの電線をはんだ付けして、ヒューズ基板を止めているネジに挟み込んでフレームに落とすことにしました。圧着端子を使ったりするのがベストだろうとは理解しているものの、動かす場所でもないので、少なくともベターといえるかなとは考えています。
ついでに電源スイッチも新品に交換しました。元々のものは無地のものなのですが、せっかくなのでステータスが分かりやすいI/Oの表示があるものにしました。

・メモリ保持電池のソケット化

画像は交換後(ついでに言うとFW ROMも交換後)。
ユーザーバンクのメモリ保持にはCR2032を使用しているのですが、タブ付き電池の直付けのため、入手性と保守性の面では不利でした。フットプリントが汎用的なCR2032ソケットと合致しているため、電池ソケットをつけておきます。
元の電池を外し、正負を間違えないように注意してソケットを基板に取り付けるだけで完了です。
ちなみに、元々載っていた電池は三洋電機製でした。今はもうパナソニックに合併された…思い出したので余談なのですが、eneloopは三洋電機が開発したもので、パナソニックに三洋が合併された後も現役製品ですが、eneloopロゴが小さくなり、Panasonicロゴが大きくなったという変化がありました…ただしこれは「日本においては」で、日本の外では従来通りの大きいeneloopロゴの製品が販売されている様子です。充電式エボルタも廃盤になりましたし、日本も、戻して…?

・寿命が比較的短い、電解コンデンサの交換

画像は交換後。
電解コンデンサは使用環境にもよるものの、おおよそ10年程度が性能を十分発揮できる期間(≒製品寿命)、といわれていますが、このαJUNO-2は85~87年ごろが製造時期とされているので、推定38~36年程の時間が経ったものと考えられます。
とはいえ正常動作しているものを換えるのは無用な処置になることもありますし、部品交換のために基板を加熱したことが原因でダメージが入ることもあるので、やたらと行うべきではないのは承知ですが…今回は「今後も長く使う」「筐体の全分解をやる機会もなかなかない」の2点から、予防処置的な部分も多いのは承知の上で実施しました。
αJUNO-2はマザーボードを鍵盤の下に設置している関係上、高さのクリアランスがかなり厳しい(実測で基板から10mm程度)ため、一般的な11x5mmサイズではなく、7x4mm程度の低頭品を中心に使用されていました。低頭品といえば秋葉原の千石電商のB1Fに色々ある(ゲームギアの修理なんかでもお世話になりました)ので、標準品にはなりますがこちらで見繕い、足りないものは11x5mmサイズを大きく寝かせて取り付けることで対応しました。
他の個所についてはそこまで制約がないため、フットプリントに注意しながら、一般的なサイズのものを取り付けて問題ない印象です。

・各種スイッチの交換

画像は…どっちだっけ、忘れた。見た目違いが出ないので。
スイッチも動作しているうちは問題ないのですが、電解コンデンサと同様の理由で交換を行いました。αJUNO-2のスイッチ類は現在でも正規ルートで新品が入手できる現役の規格品なので、古い機器で時々遭遇する廃止品や独自構造のスイッチが使われていないのはありがたいです。全体を新品に交換しておきました。入手の都合で、以前よりも荷重の軽いスイッチを採用しました。

・FWの更新

画像は交換前。
入手時点でのFWは1.5が載っていました。ネットを徘徊してみると、最終バージョンと言われている2.5UのFWが見当たったので、これに乗せ換えることにしました。FWは27128 (UV-EPROM)に書き込まれて載っていました。偶然にも部品箱に27128の在庫があったので新規調達の必要もなく、元の1.5を外し、ソケット化して、2.5Uを焼いて載せました。正常動作まで確認してOKです。
UV-EPROMは特定波長の紫外線を当てるとデータが消去されるもので、運用に入れる場合は本来遮光テープが必要なのですが、筐体内なので普段は紫外線どころか光すら当たらない場所ということもあり、簡単にマスキングテープを貼り、内容のメモだけ書いて組み込んでいます。
ネジ止め少々不思議だった点として、このαJUNO-2の1.5のROMは直付けだったのに対し、VCF/VCAチップを取り外したαJUNO-1はソケットが付いていたという点があります。この1.5はほとんど初期で、製造段階では完全な完成版のような扱いで、交換は考えてもいなかった…といった事情があったのかもしれません。
もう一つの不思議な点として、2.5Uに換装した後、ROMプリセットが1.5と違うものになりました。前から「αJUNOのファクトリープリセットは2種類ある」という話は知っていたのですが、FWのバージョンによって異なっていた可能性が高そうです。自分の見立てでは、U付のFWとそうでないFWとで違うものになっているのではないだろうか…と推測しています。触った感じでは、U付FWのプリセットの方が全体的な完成度は高い印象です。

 ・全体の清掃

画像は清掃前のαJUNO-2のコーラス回路基板。αJUNO-1ではメインボードに一緒に載っていましたが、αJUNO-2ではこの通り分かれています。
ベンドレバー破損等の不具合もあったからなのか、長らく放置されていた印象が全体としてありました(それでもαJUNO-1(1台目)よりは綺麗ですが)。今後も長く使うので、トラブルの原因になりそうな汚れなどはしっかり落としておきます。
筐体の内部の埃は拭き上げたりエアダスターで飛ばすなどして除去、こびりついたような汚れや目につくようなサビは見受けられなかったので、その点は安心しました。
基板類は一度外して中性洗剤で水洗い、乾燥させた後に上の交換作業などを行っていきました。案外当時のフラックスが残っていたりなどしたので、汚れ以外にもフラックスを落とすシーンも結構ありました。
外装もしっかり拭いて埃を取っておきました。一か所、鍵盤だけ作業時間の都合上、何も触らずに終えました。これを清掃するとグリスの塗りなおしなどが発生することと、鍵盤ユニットに目立った不具合もない様子だったことが大きいです。



動作テスト後、最後に配線を元のようにマネジメントして、組みなおして完了しました。
元々は結束バンドですべての配線が留められていたのですが、多くの部分をマジックテープタイプのケーブル留めに変更し、結束バンドのマウントがある部分についてだけは結束バンドで再度固定しました。

 

概ねこのような作業を行い、自分のαJUNO-2を実運用に入れました。
錘入りの鍵盤が楽しくて(鍵盤全然弾けませんが)、ついつい触ってしまいます。
最大ベロシティを出そうとすると、かなり強く弾かなければならないですが…まあそれはそれとしましょう。何よりもαJUNOの音源が入ったマスターキーボードです。柔らかいストリングス系の音色を鳴らすだけでどことなく落ち着けます。

普段は思い立ったらすぐ鳴らせるαJUNO-2を使いつつ、全てをユーザーパッチで埋められるMKS-50を音色倉庫的に使っていく、といったやり方も悪くなさそうです。

何にしても、あとは活用していくだけですね。今後ともよろしくαJUNO。


参考リンク:
αJunoのVCF/VCA(1) – 楽しくやろう。
https://blog.boochow.com/article/453189463.html

Roland MKS-50 Alpha Juno and SynthPlus Homepage - Your One Stop Resource For MKS-50, Alpha Juno and SynthPlus Synthesizers - Patches, Tones, Utilities, Info And DIYs
http://llamamusic.com/mks50/ 

αJUNO-2 LCD交換 – 雑技工房
https://www.zatsugi.com/index.php/2020/06/24/ajuno2-lcdreplace/

23/07/02 初版

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